本年度は、1)温度変化による振動の再駆動過程でのTIMの挙動、2)恒明下温度による概日振動に関係する時計細胞の同定、3)温度感受性時計と光同調性時計に関る時計細胞の解析、を行い、以下の結果を得た。 1.恒明条件下での温度周期による時計の分子レベルでの再駆動過程を明らかにするため、温度上昇を一度だけ経験させ、その後のTIMタンパク質の発現をウエスタンブロットで解析した。25℃一定条件から30℃への温度上昇では、TIMはPERに比べやや早く増加を始め、18〜22時間後にピークを迎え、PERにやや先行して減少した。さらに、38時間目には再び増加を始めた。これらの分子レベルの振動は、行動レベルでの高温へのステップ変化に対応した活動リズムの発現と良く一致しており、温度変化に対応してTIM量が変化することが時計再駆動の初期に起こる可能性が示唆された。 2.XLG-B系統を用いて、β-galをPER蛋白の発現レポーターとして、温度サイクル下でPERタンパク質を発現する細胞を同定し、その時計細胞内のPERの挙動を解析した結果、脳側方部ニューロン群(LN)で低温期に強い発現が生ずることがわかった。さらに、抗β-GAL抗体とDAPIによる核DNAの二重標識により、温度サイクル下においても、明暗や恒暗下での場合と同様に、PERの核移行によるCLK/CYCの不活性化が振動機構に含まれる可能性が示唆された。 3.抗PER抗体を用いた免疫組織化学により、cry^b系統が恒明条件下で示す温度同調性の強い短周期成分と光同調性の長周期成分を駆動する時計細胞の同定を試みた。その結果、LNが温度同調性の時計に関連した時計細胞であり、脳背側部ニューロン群(DN)がLNとともに温度同調に関連した時計細胞と、それとは独立に温度に同調する時計細胞の少なくとも2群を含むことが示唆された。
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