本研究ではキイロショウジョウバエ概日活動リズムを制御する時計機構に関して、(1)温度感受性時計がどのような機構で振動するのか、また、(2)温度感受性時計が光感受性時計とどのように協調して概日リズムを制御するのかの2点について解析を行い、以下の成果を得た。 恒明温度周期下から恒明恒温条件への移行でリズムが数サイクル継続すること、恒明下で20℃への単一温度変化でリズムが誘発されることがわかった。温度ステップ変化後、PER、TIMともに周期変動が誘発されることから、温度のステップ変化が、PER、TIMなど時計分子の量的変動を介して概日時計の振動を誘発することが示唆された。無周期突然変異系統での実験結果から、温度による振動にはCYC、CLKが必要であることも示唆された。 PERの発現を指標として温度周期下で駆動する時計細胞を探索し、脳側方部ニューロン群(LNs)でPERが低温期に発現することが示された。LNを欠失したdisco系統では、温度周期下でも内因的な活動リズムは発現しないことから、上記の結果とあわせて、LNが温度周期下でのリズム発現に主要な役割を担うことが示唆された。 クリプトクロームの機能欠損をもつcry^b系統では恒明条件下で長周期(LPC)と短周期(SPC)の2つのリズムを発現する。抗PER抗体を用いた免疫組織化学の結果は、SPCはLNと一部の脳背側部ニューロン群(DN)が、LPCは残りのDNによって制御される可能性を示唆した。光周期と温度周期への同調実験の結果、SPCはより温度同調性が強く、LPCは光同調性の振動体により制御される可能性が示唆された。この結果は、温度周期下でのリズム発現にLNが主要な役割を担うことともよく一致する。cry^b系統の行動リズムの解析から、SPCとLPCは相互作用により通常同調するが、SPCがLPCに対してより強力な同調作用を持つことがわかった。
|