本年度は下記の点について研究を行った。 1)性特異的mtDNAの普遍性 性特異的mtDNAの存在はこれまで二枚貝でしか知られていない。そこで多板綱、腹足綱、掘足綱について、繁殖期に生殖巣を調べて雌雄を判別した後に生殖巣および他の組織を分離した後に、mtCO1の最も保存性の高い領域をプライマーとしたPCRを行い、PCR産物をクローン化して各組織について10クローンの塩基配列を決定し、比較した。その結果、個体変異は認められたものの、生殖巣と体組織で異なる配列は得られず(増幅時のエラーと考えられるものを除く)、また雌雄で明確に異なるハプロタイプの見い出されなかった。同様の方法を用いて二枚貝で実験を行うと、雌雄あるいは雄の組織間で明瞭に違う性特異的ハプロタイプが検出されることから、この現象は二枚貝に特異的な現象であることが示唆された。なお、これまで性特異的mtDNAの存在が知られていなかった二枚貝の原鰓類でも、性特異的ハプロタイプと思われるものが得られていることから、この現象は二枚貝には普遍的であると考えられる。 2)二枚貝mtDNAゲノム構造の進化 二枚貝類に最も近縁であると考えられる堀足類のヤカドツノガイDentalium octagulataのmtDNAゲノムの約80%の塩基配列を決定した。ツノガイのゲノム構造はこれまでに知られている軟体動物のいずれとも異なっていたが、ND4L-ND4-ND5など他の動物門と共通の遺伝子配置やいくつかの二枚貝では欠けているATPase8の存在が認められた。これらの特徴は原鰓類にも認められることから、二枚貝類における原始的なゲノム構造にはこれらの特徴があり、それが高等な二枚貝類に至る過程で失われて行ったと考えられる。これまでに得られたデータともとに二枚貝類におけるmtDNAのゲノム構造の進化過程を推定した。
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