研究概要 |
和歌山県の有田川北部の大池遊園地域周辺で生じたタイワンザルとニホンザルの交雑群の遺伝子構成を核遺伝子、Y染色体遺伝子、ミトコンドリア遺伝子を標識に調査した。この結果、近隣の在来ニホンザル生息地から移入したオス個体とタイワンザルのメスの間で繁殖力をもつ子孫が生まれ、移入種群中では急速にニホンザル遺伝子の頻度が増加していることが明らかになった。また、生息群を離れて他所へ移住するオスを介したタイワンザル遺伝子の分布拡大について、Y染色体遺伝子変異を利用したモニタリング方法を確立し、紀伊半島の野生ニホンザル生息地の調査に応用した。この結果、和歌山県の外部まで移入種の遺伝子が拡大しているという証拠は得られなかった。さらに、交雑状況を評価するのに有効な核遺伝子標識として新たにnatural resistance-associated macrophage protein1(NRAMP1)遺伝子の変異を実用化することに成功した。また、交雑評価に関するAFLP(制限酵素断片長多型)の有効性についても検討をおこない予備的な成果を得た。 房総半島南端に出現したマカク外来種の野生群の生息状況と遺伝子特性を調査したところ、少なくともこの地にアカゲザルが侵入していることが明らかになった。丘陵地域に生息する在来ニホンザルとの交雑の有無を調査,分析した結果、交雑は10年以上に及んでいるとの証拠を得た。また、交雑状況は正逆の両方向に進んでおり、交雑の場所は移入種が定着した房総半島先端部だけでなく在来種が生息する丘陵部でも生じていることが示唆された。 移入種の分布拡大をさらに比較研究する目的で、もともとニホンザルが生息しない伊豆大島に侵入し拡大しているタイワンザルを調査した。ミトコンドリア遺伝子変異の分析から、島内での分布拡大の経緯が明らかになり、短期間で急速に分布域を拡大していることが示唆された。
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