昨年度整備した低温(約50K)から高温(約1400K)まで温度を変えることのできる試料マニピュレーターを用い、高エネルギー加速器研究機構放射光施設(PF)のビームライン15Bに設置されている6軸表面X線回折装置を利用して実験を行った。 超高真空装置内でSi(111)面の清浄表面である7x7構造を作製したのち、Agを蒸着して√3x√3構造を作り、50Kから450Kまでいくつかの温度で測定を行った。低温では、回折ピークの周りに散漫散乱が観測された。これは、IET(InEquivalent Triangle)モデルにおいて、互いに回転方向の異なるtwinに相当するドメインがX線のコヒーレント領域内にほぼ同じ割合で多数存在すると考えることにより説明できることが分かった。この散漫散乱の温度依存性を調べることにより、相転移温度は150K±4Kであることを見いだした。 まず、相転移温度より十分高い室温のデータを非等方的な温度因子をとりいれて詳しく解析した。室温については再現性も含めて複数回測定したデータを用いた。その結果、IETモデルより、従来のHCT(Honeycomb Chained Triangle)モデルにおいて、三角形状に配列したAg原子はその中心の周りにつよく熱振動しているモデルの方が実験結果をよく説明できることが分った。 次に、散漫散乱積分強度の温度依存性から臨界指数を求めると約0.26であった。この値は、秩序・無秩序相転移のときによく知られている0.125(=1/8)という値にくらべてかなり大きい。さらに、そのときの回折斑点の積分回折強度の温度依存性を詳しく検討すると、相転移温度の前後で変化し、しかもその変化の様子は反射指数に依存することが分かった。以上のことから、Si(111)√3x√3-Agの相転移は秩序・無秩序型ではなくむしろ構造変化をともなう変位型であることが分かった。
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