立方晶窒化ホウ素(cBN)薄膜堆積過程を解明することを目指して古典分子動力学計算と第一原理電子状態計算とを行った結果、本年度は下記の結果を得た。 まず、スパッタリングによるSi基板からのcBN薄膜堆積過程でグラファイト的BN(gBN)層が成長した後にcBN層が成長する、という実験からの知見を念頭に、gBN基板への高速B、N粒子の入射を古典分子動力学法によって調べた結果、高エネルギー粒子は標的中に侵入し4配位の欠陥構造を形成すること、およびこの欠陥構造のクラスターとしてcBN核が形成されることがわかった。また、高速粒子入射によって誘起される4配位原子数は入射粒子エネルギーが200-300eVの時に最大であり、これはイオンビーム蒸着法でのcBN形成閾値が数百eVのオーダーであることとよく対応する。以上の知見を基に、cBN結晶成長プロセスの原子スケールモデルを構築した。 次に、古典分子動力学法で得られた知見の信頼性を確認するため、入射粒子により誘起される4配位欠陥構造の安定性を局所密度汎関数法による第一原理計算で調べた。その結果、4配位構造が安定であることを確認したが、詳細に見ると古典分子動力学計算と密度汎関数法計算とで得られる構造に差異が見られた。この差異の原因を調べた結果、gBNにおける層間相互作用が十分記述できていないなど、古典分子動力学計算に用いたポテンシャルの問題点が明らかになった。この点を克服するためにポテンシャルを改良することは今後の課題である。 最後に、cBN薄膜形成を促進する因子を計算で見出すことを試みた。具体的には、荷電粒子入射に伴う基板内の過剰電荷がこの因子の一つであると推測し、この可能性を調べるために第一原理計算を行った。予備的な結果は上記の推測が妥当であることを示唆しているが、詳細は今後引き続き解析を行う予定である。
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