研究概要 |
液体表面や液-液界面に両親媒性分子が単層で吸着して形成する単分子膜は、ナノメートルの厚さをもつ2次元分子集合体として物性物理の興味深い研究対象である。これらの膜はまた、機能性有機薄膜として応用が進められるLB膜の前駆体として工業的にも重要な素材である。しかし表面に分子が吸着する過程、あるいは表面内の分子移動や配列などのダイナミクスについては、その測定はきわめて困難である。本研究の目的は、流動する表面上に形成される分子膜の状態をリプロン光散乱を用いて観察することにより、表面層形成のダイナミクスを調べる全く新しい手法「流動場リプロン光散乱法」を開発することにあった。 研究ではまず、フローセル上を流速1.0〜30cm/sで流動する液体表面について、実際に熱揺動により生じたリプロンの光散乱分光を行い、その周波数シフトが流速に平行な成分と流速に反平行な成分とで流動に伴なうドップラーシフトを示すことを実験的に明らかにした。このシステムをデカン酸水溶液表面における分子吸着膜の形成過程を測定に応用し、溶液中の拡散が律速となる吸着現象を見出した。さらにリプロンの精密測定により、吸着段階で表面弾性が時間と共に増加することを確認し、流動場計測が表面の非平衡過程の測定法として有用であることを示した。 また液体表面の超高速現象を捉えるために、光散乱信号の処理をディジタル化し、その相関測定をすることにより10m秒の時間分解能でリプロンスペクトルを測定することに成功した。このシステムを用いてオクタン酸ナトリウムなどの標準的な両親媒性分子の吸着測定を行った結果,10msという高い時間分解能で溶液表面に分子膜を形成する動的過程を観察することができた。このシステムの時間分解能はこれまでのあらゆる表面計測測定手法を凌駕するものであり,今後液体界面物性の有効な手段となることが期待できる。
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