DNAやタンパク質などの生体高分子やコロイド粒子は水溶液中で電荷を帯び、電場により並進的に泳動(電気泳動)する。このような直流電場下での荷電性高分子の電気泳動現象はDNA等の分子量分画法やタンパク質分析法として利用され、バイオテクノロジーの重要な要素技術となっている。この際、荷電性高分子の重心速度と印加電場の比で定義される電気泳動易動度はコロイドや高分子の帯電量を与える特性量であり、さまざまな方法による直流電気泳動易動度測定が行われてきた。しかし、正弦波電場を用いて複素電気泳動易動度スペクトルの測定を行えば、荷電性高分子の電気的ダイナミックスに関しても有用な知見を得ることができると予想されるが、従来、そのような測定は全く行われて来なかった。そこで本研究ではまず、光散乱法を用いて交流電場下における荷電性高分子の複素電気泳動易動度スペクトルの広帯域・高精度測定が可能な新しい測定法を開発した。さらにこれを用いて球状荷電性高分子(ラテックス)の1Hz〜100kHzの周波数範囲で複素電気泳動易動度スペクトル測定を初めて実現し、荷電表面近傍での反対符号イオンの電気的ダイナミックスに関して有用な知見を得ることに成功した。 一方、電気的特性が既知であるナノサイズのコロイド粒子をゲルなどの複雑流体中に分散させて、その易動度スペクトルの測定を行えば、複素電気泳動易動度が溶媒の複素粘性率の逆数に比例することを利用して複雑流体中の局所的内部構造や局所的力学物性に関する知見を得ることが可能となる(電気泳動マイクロレオロジー)。そこで、本研究では、代表的複雑流体である界面活性剤ラメラ構造中における微小コロイド粒子の易動度スペクトル測定を行ない、従来のマクロスコピックな力学測定では得られなかったメソスコピックスケールでの局所的構造およびその力学物性に関する知見を得ることに初めて成功した。
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