干渉光学は可視光領域において華々しい成功を修め、現代の科学技術分野において欠くことのできないものとなっている。しかし、波長が短い電磁波である軟X線の領域を見ると、干渉光学の発展が極めて遅れており、軟X線の波としての性質を活用した計測が十分には行われていない。言うまでもなくこれが実現すれば、様々な応用分野が拓けると考えられるが、軟X線の波長は短く、適当な光学素子も乏しいことがこれまでの発展の妨げであった。我々は、軟X線よりも波長が短い硬X線干渉計研究の経験を生かし、それまでのアクティビティを軟X線領域へ拡張するという位置づけで本研究を行った。硬X線領域では結晶光学素子が使えるために、波長が0.1nm程度であると雖も干渉計構築が成功している。軟X線領域では結晶が使えないことや真空中での干渉計構築が条件となることなど、この領域固有の課題が多いが、我々の硬X線領域での研究実績を礎にすれば、軟X線干渉計の構築にもチャレンジできると考えた。 軟X線源にはシンクロトロン放射光(波長13nm)を使い、基板なしRu/SiN薄膜をビームスプリッタに採用したマッハ・ツェンダー軟X線干渉計を試作した。この構成は、比較的干渉させ易く、且つ、応用への展開も比較的幅広く考えられることから選択した。4枚の光学素子を干渉するように配置するための精密調整軸を実質2つ設ければよいことを見出し、圧電素子を使った精密ステージを組み込んだ軟X線干渉計のプロトタイプを試作した。また、調整方法の確立も重要な課題と考えられ、我々は可視レーザーのvisibility測定に基づく方法を整備した。干渉実験は高エネルギー加速器研究機構の放射光実験施設で行った。しかしながら、現時点で干渉を観察するに至っていない。原因としては、除振の不足、基板なし薄膜の変形、等が疑われており、今後対応を施して実験を続ける予定である。干渉が観察できるようになれば、干渉計に光路長可変機構を加えて、軟X線フーリエ分光の開発へ展開する予定である。これにより、従来の軟X線吸収発光分野において、革新的な分解能実現を狙う。
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