本研究は、コーヒーレント波動に現われる位相共役波という現象を、超音波画像の鮮明化に応用しようという試みである。超音波画像は不透明媒質内部を低侵襲で観察できることから、特に非破壊検査と生体内画像化に利用されているが、その画質は、直進性の強いX線などを用いた画像に比べると低い。これは、屈折、回折、散乱などの撹乱によるものである。本研究では位相共役素子の導入により共振形態をなす音場を作り出してこの攪乱を補正することを目標に、超音波画像装置を設計、製作し、画像取得実験を行った。その結果、ほぼ理論から予想される通りの画像鮮明化に成功した。そのレベルは、過去の報告にあった「原理確認」のレベルを超え、表面凹凸のある金属試料の表面下観察など、より実際的なレベルに近づいたといえる。しかしながら、本研究の最終目的である、連続波超音波を用いた真の共振状態を利用した画像化には到達しなかった。ただし、その原因は実験条件の制約によるものであり、製作した画像装置を将来改良することにより到達を目指す予定である。 また、本研究では、位相共役波を用いた超音波画像そのものだけでなく、位相共役波自体の忠実性、すなわち、もとの波にどの程度まで波面が一致するかということを実験的に検証することにも注力した。これは、この性質が画像装置の性能を決めるからであり、また光と異なり超音波は場の分布を観察するのが難しいため、過去には十分な検討がなされていなかったためである。この目的を達成するため、シュリーレン光学系を用いた超音波可視化装置を製作し、上記超音波画像装置と結合させ、超音波画像化実験と音場可視化実験を同時に行えるようにした。この結果、位相共役波は波長の数分の1の精度で入射波と波面が一致することを観測した。
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