研究概要 |
血管壁の主要構成要素である平滑筋細胞は種々の刺激に応じて収縮・弛緩し血管径を変化させるほか,コラーゲンなど様々な物質を産生して血管壁を能動的に作り変えている.その収縮特性や物質産生は加えられる力学刺激に応じて変化し,例えば慢性的な繰返し引張により物質産生が増加するほか,収縮を繰返すと収縮速度が上昇し,収縮状態で放置すると消費エネルギーが減少するなど,能動的アクチュエータとして興味深い特徴を有する.そこで本研究ではラット胸大動脈平滑筋細胞の力学特性,収縮特性を単一細胞レベルで詳細に調べ,力学的刺激との関連を明らかにすることを目的として,3年間に亙る研究を進めている.初年度は,正常血圧と高血圧のラット胸大動脈から得られた平滑筋細胞の弛緩状態における引張特性を計測し,高血圧ラットより得られた細胞が柔らかくなっていることを見出した.研究2年目の本年度は,弛緩状態と収縮状態の平滑筋細胞の力学特性の違いを計測した.即ち,正常血圧ラット胸大動脈をコラゲナーゼおよびエラスターゼで分解することにより平滑筋細胞を単離し,これを自作の細胞用引張試験機に取付け,引張試験した.試験の際の細胞把持方法をマイクロピペットで吸着し把持する方法から,接着剤としてウレタン樹脂を塗布したマイクロロッドに接着させる方式に改良し,実験操作の簡便化を図った.弛緩状態の平滑筋細胞の初期弾性率は16kPa程度であったのに対し,10^<-5>Mのセロトニンで収縮させた平滑筋細胞の初期弾性率は156kPaと遥かに硬い結果が得られた.一方,血管壁全体の弾性率は0mmHg付近ではセロトニンによる収縮によって1.3倍程度しか増加せず,血管壁全体の力学特性の変化と細胞の力学特性の変化の間には極めて大きな隔たりがあることが明らかとなった.
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