研究概要 |
先進金属系材料は極めて環境に敏感であり,材料中に水素が吸蔵されることにより水素ぜい化を生じることが問題となっている。したがって,実使用環境中における延性・じん性を改善し,実用に耐えうる材料を開発するためには,材料内部の水素の存在状態,すなわち拡散性水素と非拡散性水素量を含めた水素溶解量と環境ぜい化特性の関係を明らかにする必要がある。以上のことを鑑み,今年度はまず水素局在化分布特性を評価するために,銀デコレーション法を開発した。本手法は,銀デコレーション溶液中の銀イオンを試料より拡散してきた水素原子により還元することにより,試料表面にAg粒子として現出させて水素の局在化分布を可視化するものである。本年度は,1)水素溶解量が多いほど析出銀粒子の数が増加すること,2)銀デコレーション溶液のpHが小さいほど析出銀粒子の数が多く,より高感度の測定が可能であること,3)銀デコレーション溶液中への試料浸漬時間が長いほど析出銀粒子が大きくなること,4)ケルビンフォース顕微鏡を用いることにより銀の同定が可能であることを明らかにした。また,析出銀粒子の大きさは数十nmであり,サブミクロンメータオーダでの水素の局在化を解析できる可能性が示された。併せて,高強度ステンレス鋼の環境ぜい化特性に及ぼす動的応力の影響について検討した。本材料は低応力拡大係数範囲域では,荷重保持時間の影響が顕著に現れ,正弦波応力負荷下に比べて負パルス波条件下のほうがき裂進展速度が加速すること,またカソードチャージ条件下では板厚の効果が現れ,板厚の薄いほうが厚い場合に比べてき裂進展速度が加速する点に特徴がある。さらに,昇温水素分析と水素マイクロプリント法による水素の局在化分布解析結果より,カソードチャージ条件下では旧オーステナイト粒界内の転位にトラップされた水素が環境ぜい化に寄与していることが示され,破面性状と対応した。
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