研究概要 |
本研究の目的は、高温における下限界近傍の疲労き裂進展挙動の把握と下限界のメカニズムと密接に関連するものとみられるナノおよびメゾスケールの構造に着目し、下限界近傍の疲労き裂進展と下限界挙動に関して、分子動力学を用いたナノスケール解析とともに,マクロスケールの実験とメゾスケールの観察よりアプローチすることにある。 平成15年度に得られた主な研究成果は,以下の通りである. 1.真空条件下の下限界近傍および下限界以上の領域における高温疲労き裂伝ぱ実験を,ステンレス鋼SUS304に対して行った.まず応力拡大係数範囲ΔK漸減法により疲労き裂進展下限界値ΔK_<th>を求めた。疲労き裂進展の下限界値ΔK_<th>は,大気中と同様真空中においても,550℃付近で極大値をとることがわかった。き裂進展の下限界現象が認められた後,最大応力拡大係数を上げた.その結果,大気中と同様,再びき裂進展が認められた.この操作を繰り返すことにより,真空中においても真の下限界値というべき値が存在することがわかった. 2.分子動力学法を用いて,鉄における下限界近傍の疲労き裂伝ぱのナノスケールシミュレーションを行った.疲労き裂進展に及ぼす傾角粒界とねじり粒界の影響を,き裂と粒界のなす角度および結晶の間の角度を種々に変えて調べた。対応傾角粒界のうち,小角粒界であるΣ73およびΣ99の粒界については,き裂が粒界を越えるものがあったが,大角粒界であるΣ9およびΣ11の粒界についてはき裂進展阻止効果が大きかった.ねじり粒界に対しても検討を行った結果,粒界がき裂に対して90°のモデルではき裂進展阻止効果が認められた.
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