研究概要 |
ヒトの肺は,気管から末端の肺胞に至るまで分岐管の集合により構成されている.流路の一方の端(気管)は大気に開放されているが,他方(肺胞)は行き止まりであるにもかかわらず,肺は酸素と炭酸ガスの極めて効率良いガス交換を実現している.従来,流路軸方向のガス交換に寄与する因子として,(1)Taylor拡散,(2)streaming,(3)二次流れ,が挙げられているが,本研究代表者らが流れの挙動をより詳細に観察した結果,吸気・呼気いずれの場合にも,各分岐曲がり部での「はく離域の発生・消滅」とそれによる流体の「捕捉・放出」効果が,流路軸方向物質交換の基本機構であることがわかった.この新たに見出された上述の物質交換過程は,実際の人肺においても生じていると推測されるが,本研究は,それをより実際に近い条件において定量的な観点から検証かつ解析し,もってヒトの肺の気管支内におけるガス交換機構を工学的見地から明らかにすることを目的とする. 流れの可視化実験および物理モデルの構築(担当 望月)ヒトの肺を模して,3次元的に分岐するガラス製テストセクションを新たに製作し,通常呼吸および人工呼吸法のひとつである高頻度呼吸を再現する脈動周波数範囲での実験を一部の条件範囲について行った.可視化結果より,左右対称に分岐する場合でも物質輸送にその上流部での流れの非対称性が影響を及ぼし,物質輸送速度が速い経路が存在することがわかった. 数値シミュレーション(担当 村田)3次元的に分岐する管内の非定常流れと物質拡散の基礎方程式を用いて,有限体積法による数値解析を行った.3通りの分岐角度での計算を行い,剥離泡の大きさと物質移動量の間に相関があることが明らかとなった.但し,その関係は単調なものではなく,最適な分岐角度および剥離泡の役割の詳細な検討は次年度の課題となった.
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