研究概要 |
前年度に引き続き,マイクロ波照射環境下における生体組織の凍結観察実験を行った.本年度は,細胞内凍結がより詳細に観察できるようタマネギの表皮組織を観察対象とした.また,マイクロ波強度をコントロールした実験を行うために,1スロットアンテナとスポットアンテナの2種類のマイクロ波照射用アンテナを製作・導入するとともに,試料に照射されるエネルギー強度の測定を行った.その結果,最大で160mW/cm^2の放射強度の実験が可能となった.さらに,凍結ステージの温度制御性を高めた一体型の凝固ステージを製作し,マイクロ波による加熱のための温度上昇をコントロールした実験を可能とした. 以上の準備のもと,冷却速度を毎分3℃,10℃,20℃の条件において,マイクロ波を試料に照射しながら冷却する実験を行ったところ,細胞内に氷晶が発生する温度は-5℃から-15℃の範囲にあり,今回の実験におけるマイクロ波の放射強度の範囲においては,凍結温度の低下は見られず,発生した氷晶の形態にも有意な差は観察されなかった.ただし,今回の実験では,計測系をマイクロ波から保護するため,実験系を遮蔽しており,そのため反射波の影響によってマイクロ波の位相が乱れた可能性が考えられ,水分子の回転よりも,ランダムな振動運動が支配的となり,有意な差が生じなかったことが原因として考えられる.この点を明らかにすることにより,新たな進展が期待されるものと考えている. なお,水分子モデルとしてSPC/Eモデルを用いた分子動力学シミュレーションも継続して行っており,クラスター形成過程における回転運動の影響を詳細に調べている.マイクロ波を付加することによってクラスター化が抑えられる様子を再現中である.
|