研究概要 |
本研究では,様々な物理環境が荷重組織の再生に及ぼす影響を調べ,再生医療工学の具体的指針を得ることを目的として行われた. 1)フィブロインスポンジにウサギ軟骨細胞を播種して振動刺激を加えたところ,細胞の増殖制に及ぼす垂直振動と水平振動の刺激効果に差異が見られた.また,振動の軟骨機能や分化に及ぼす効果,細胞の材料表面への接着に及ぼす影響を定量評価した.まず大まかな縦振動場を設定し,その振動場において細胞を培養すると,一方では細胞接着の促進が示され,もう一方では細胞接着は阻害され,細胞凝集体(スフェロイド)の形成が確認された.この現象をより詳細に調べるために,振動の不均一性の小さな振動場を設計し,細胞接着の定量評価を試みた.振動制御により得られた細胞凝集体は単体の細胞よりも実際の組織に近い機能を有しており,また接着性も高く,臨床応用に大きな可能性が示唆された.しかし,振動刺激の効果には多くの誤差が測定されてしまい,そのメカニズムは明白とならなかった. 2)In vivo及びin vitroにて,滑り刺激が再生軟骨組織構造に及ぼす影響を調べた.In vivoにて曲げ滑り刺激を加えるとでは平滑な滑り面を有する硝子軟骨様組織の新生が認められた.この組織は正常軟骨と同等の表面および層状構造を有していた. 3)再生軟骨の摩擦摩耗特性評価,細胞の接着性の定量評価を行った.その結果,細胞,組織の機能発現に細胞接着性の時間変化が大きな影響を及ぼしている事実が見いだされた. 以上の物理環境設定実験を通して,生体の機能を設計するのではなく,生体の環境を設計することによって生体機能を「育てる」ための「生体環境設計」なる,方法論と設計論が確立し,その内容は書籍「機能設計から生体環境設計へ,富田直秀著(序論:「生命」を基本に置く医療を求めて--生命誌との関わり,中村桂子(JT生命誌研究館館長):丸善)」に紹介された.
|