強磁性金属を電極に用いたトンネル接合デバイスは、高速・高集積の不揮発性メモリ(Magnetic Random Access Memory:MRAM)として、大きな注目を集めており、活発に研究開発が進められている。従来の研究は、MRAM応用を目指したトンネル磁気抵抗デバイス(TMRデバイス)として、強磁性電極/極薄酸化膜障壁/強磁性電極からなる単一障壁構造を用いている。MRAMの高性能化を図るための最も重要な課題は、磁気抵抗比の増大である。本研究では、この課題に取り組むため、多重障壁構造を導入し、共鳴トンネル現象を活用することに着目した。強磁性電極を用いる場合、電極が金属であること(共鳴トンネルデバイスの研究が進んでいる化合物半導体に比較して、有効質量が大きく、また、フェルミエネルギーが大きい)と、スピンの自由度を有するという2つの側面がある。最初に、金属系2重障壁構造におけるトンネル電流密度をデバイス構造パラメータの関数として計算し、単一障壁構造と比較した。その結果、概略として、金属系2重障壁構造と単一障壁構造ではトンネル電流密度が同程度(特に実用的なバイアス電圧0.5V以下の領域において)となることを示した。化合物系では共鳴トンネル現象により、トンネル電流密度は、2重障壁構造の方が単一障壁構造よりも大きくなる。化合物系との違いは、金属系では有効質量が大きいために、共鳴トンネル準位のエネルギー幅が小さくなることに由来している。次に、金属系3重障壁構造における共鳴トンネル現象の条件を解析的に求めた。重要なことは、電流-電圧特性が電圧に関して、デルタ関数的になることである。さらに、スピンを考慮した強磁性金属3重障壁構造の電流-電圧特性を解析的に明らかにした。これらによって、強磁性多重障壁構造を用いたTMRデバイスの基礎を確立した。
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