本研究は、光ファイバ通信用偏光分離素子や光ピックアップ用波長板に応用できる斜め配向針状異方性膜の研究開発を行うものである。斜め配向針状異方性膜は、その膜厚が厚ければ(数10μm以上)偏光分離素子として、膜厚が薄ければ(数μm)波長板として機能する。本研究では、斜め配向針状シリコン偏光分離素子の開発研究に当初取り組んだが吸収損失が大きいため、その後、酸化イットリウムや石英ガラスによる斜め配向針状厚膜による波長板に取り組んだ。以下にその成果を要約する。 1.膜の微細構造の分析 成膜条件と斜め配向構造との関係を調べた。その結果、蒸着角度に対してそのほぼ半分の角度で針状の微細構造が成長すること、これは蒸着材料に依存しないことが確かめられた。特に、蒸着材料としてSiO_2を用いた場合には極めて明瞭な針状構造が形成されることを見出した。この構造は、その針状構造間に種々の物質を充填させるためのホスト構造としても興味があり、今後の新しい人工異方性材料の研究に発展する可能性がある。 2.デバイス応用 斜め蒸着膜が偏光分離効果のほかに波長板としての効果があることは、Ta_2O_5を蒸着材料として用いた従来の斜め蒸着の研究により確認されていた。本研究では新たにY_2O_3も材料に加え、波長板の作製技術の開発を行った。用途は、光ディスクの光ピックアップ系や液晶プロジェクタ用波長板である。微細構造による光の散乱の発生を抑えるため、蒸着角を50度とした。膜厚が3.8μm、針の成長角が22度のとき波長633nmにおいて、位相差が目的とした1/4波長板の値にほぼ等しい88度を得ることができた。透過率も高く、今後の実用化が期待できる。
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