本研究は、光電子増倍のような特殊な技術を用いることなく、オーバーサンプリング信号処理に基づく新しい雑音低減技術により超高感度撮像を実現することを目的としている。これまで関連する幾つかの方式を提案してきた。まず1つは、信号蓄積途中の信号を非破壊で読み出すことができるCMOSイメージセンサの出力を用いて、その高速画像間に強い相関があることを利用して信号を予測し、雑音低減を図るものである。具体的には、信号レベルとリセットレベルを列読み出し回路の初段で高ゲインで増幅し、その出力を高精度でA/D変換し、画素毎にディジタル積分する。その結果をD/A変換した信号を、アンプ前にフィードバックする。これによって、ディジタル積分を行っても雑音の蓄積がなく、列読み出しアンプによって、量子化雑音やアンプ後の広帯域雑音が大幅に軽減できる。さらに、蓄積途中の信号間に相関が強いことを利用し、雑音成分を最小2乗法による振幅推定を行うことでさらにノイズ低減が可能であることを明らかにした。また、実用性の高い、比較的簡単な構成で、目的とする低雑音信号読みだしが可能な適応処理による高ゲインカラム増幅型のイメージセンサを提案し、実際に0.25um CMOS技術に基づき、試作を行った。その結果、読みだし回路部については、ほぼ計算通りの低雑音信号読みだしが可能であり、またCMOSイメージセンサとしての性能も、これまで発表されているなかで最も低雑音であることを実証した。このようなノイズ低減効果を計算するにあたり、実際のイメージセンサの読みだし回路が発生するノイズを計算するモデルと、サンプリングノイズの計算手法を提案した。特に、熱雑音と1/f雑音の両方を考慮し、伝達関数を用いて解析する手法とアナログハードウェア記述言語によるランダム信号を用いた統計的過渡解析による解析手法を確立し、両者が一致することを明らかにした。その解析の過程で、ノイズキャンセルを2段構成で行うことで、主要なサンプルノイズ成分の一部が大きく低減できることを示し、その結果極めて低雑音の信号読みだし回路が実現できることを理論的に予測することができた。これらの成果は、ISSCC(国際固体回路会議)等の国際会議、IEEE Trans. Electron Device等の学術雑誌にて発表を行っている。
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