研究概要 |
半導体ヘテロ接合構造における2次元電子系は、サブバンド間エネルギーに相当する光学フォノンやフォトンによって、コヒーレントに分極振動励起される。この振動波をプラズマ電子波と称する。一般的な材料系において、プラズマ電子波の基本モード周波数はサブミクロンの波長領域でテラヘルツ帯に到達する。そのため、プラズマ電子波は、テラヘルツ帯での信号処理機能を実現する可能性を有している。特に,光波と同期したコヒーレントテラヘルツ電磁波の発生が可能な光注入同期型発振素子としての機能は、将来の情報通信システムや計測システムのテラヘルツ応用上、利用価値が高い。このプラズマ電子波の共鳴効果に着目し、構造の単純な既存のGaAs MESFET(metal semiconductor field effect transistor)やInGaAs/GaAs pHEMT (pseudomorphic high-electron mobility transistor)を対象として、2光波注入による差周波テラヘルツ同期発振動作の実現を目指して、理論・実験の両面から検討を行った。その結果、まず第1には、0.08 μmゲートのGaAsMESFETに対して、室温条件下1〜6 THzの領域でプラズマ共鳴動作とそのゲートバイアス依存性の観測に成功した。GaAs MESFETの構造特性を反映したプラズマ共鳴モデルを構築して理論解析を行った結果、実験結果をよく説明できた。第2には、0.15 μm InGaAs/GaAs pHEMTに対して、室温条件下1〜8THzの領域でプラズマ共鳴強度の励起周波数依存性の観測に成功した。バンド間光学励起にともなう光励起キャリアがプラズマ共鳴特性に及ぼす影響をモデル化することにより、実験結果は理論とのよい一致を見た。いずれの実験も、直流ポテンシャル変調成分のインコヒーレント測定による観測であるが、プラズマ電子波のテラヘルツ帯共鳴動作の材料・構造依存性に関する多くの知見を得ることができた。今後のデバイス構造設計に向けた基盤技術として重要な成果が得られた。なお、これらの実験と並行して、電気光学サンプリングによるテラヘルツ時間領域測定システムを構築し、現在引き続きコヒーレントな計測へと展開しているところである。実験結果から予測される最大変換効率は、現状では10^<-5>以下(〜nW/mW)と低く、励起効率の改善とテラヘルツ電磁波放射効率改善に向けた、新構造デバイスの提案等、今後の発展が期待される。
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