波長が粗骨材の径に比較して長い場合は、先に開発した多重反射波モデルが有効であるが、この方式では基本反射波を時間領域で正確に求める必要があり、そのため現場のユーザには使いにくい。そこで本年度は、この方法を使いやすくするため、周波数領域で検討し、表面から600mmまでの深さの任意のクラック、空洞の検出が容易に行えるようにした。 具体的には、受波信号のスペクトルから(最小二乗法で求めた)基本反射波スペクトルを差し引いたものの半波整流波形をまず求め、次にこの半波整流波形の自己相関関数を求めることにより、多重反射波の周期、換言すればクラックの深さが容易に求められるようにした。この方式により、(表面から)50mmの深さから600mmまでの深さの(表面に平行な)面性状クラックだけでなく、斜めのクラック、更には鉄筋の後にあるクラック(共に面性状)まで検出することができた。 なお、この超音波方式は、クラックや空洞の位置(空洞では空洞の上面の位置)しか測れないため、この超音波方式を補完する観点から、本年度は電磁波レーダを用いた新たなコンクリート構造物の非破壊検査方式も一部研究した。つまり、従来の電磁波レーダ方式では、受信信号の強弱を単に濃淡画像で表わし、これを目視でみて異常診断を行なっていたため、信頼度、精度とも大幅に劣化していたが、今回新たに提案した新方式では、電磁波の信号伝播モデルを活用した物理的洞察に基づく斬新的な方式であるため、単一のクラックや空洞だけでなく、探査点直下の複数のクラックや空洞も高精度に識別・検出でき、かつそれらの位置、厚みも計測できる利点がある。
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