研究概要 |
風の乱れに起因する構造物の不規則振動(ガスト応答,バフェティング)の周波数解析手法は,風の乱れの空間相関と構造物に発生する空気力や表面圧力の空間相関が等しいという仮定を用いているが,特に低周波数領域では空気力や圧力の空間相関が風の乱れよりも高いことが指摘され,長周期の動特性をもつ大規模構造物では解析結果が実際の振動応答を精度良く評価し得ないことが問題となっている.本研究では風洞内において物体表面圧力の多点同時計測を実施し,このような接近流と物体表面圧力の空間相関の違いを明らかにすると共に,物体周囲の剥離流れの時間空間変動との関連から,そのメカニズムを探るものである. 平成13年度に実施された研究成果を基に,完全剥離型の空力特性を示す正方形断面を風洞内に水平に支持し,3次元変動気流中で表面圧力の多点同時計測,ならびに熱線流速計を用い物体側面近傍の流れの多点同時計測を行った.3次元変動気流は,周波数を制御しつつ,模型上流側に設置された2枚の鉛直仕切り板により模型スパン方向(流れ直角水平方向)に3つのセクションに分け,上流の翼列により各セクションに周波数の異なる正弦波状の2次元変動気流を発生させるものである.一連の実験の結果,平成13年度で対象とした断面側面で再付着を伴う断面辺長比1:5の矩形断面と同様に,表面圧力のスパン方向の相関性が接近流よりも増加し,より2次元的な特性を示すことが確認された.なお,1:5矩形断面で見られた短時間でスパン方向に圧力変動成分が伸張するような特性は明確には確認されず,各セクションを隔てる導流壁から発達する境界層の影響が局所的に強く現れた,スパン方向の高い相関の要因は断面前縁から発達する剥離せん断層のスパン方向の一様な(2次元的な)形成にあるものと判断された. また,平板の空力アドミッタンスとして解析的に求められているSears関数の前提条件である「鉛直変動気流の空間分布が平板通過時に不変とする」点に注目し,断面辺長比1:30の矩形断面を対象に断面表面圧力および断面近傍の鉛直変動風速を計測した.その結果,計測波形は正弦波からの歪みが認められ,解析上の前提条件が必ずしも成立しないことが明らかとなった.しかし,上下面の圧力差は正弦波に近く,揚力の評価には結果的に解析上の条件はほぼ満足されていることが同時に明らかとなった.風速や圧力の変動のうち,着目する周期成分を,波形を歪めることなく抽出するためには,従来のような周波数分析の適用が困難であったため,着目する周期で計測データをアンサンブル平均処理する手法(本研究では時間平均手法と呼んだ)を試み,その応用性が期待できることが明らかとなった.
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