研究概要 |
交通情報提供の効果を分析するには,意思決定者が保有する情報の不完全性を明示的に考慮した行動モデルを構築した上で,情報提供前後の行動をシミュレートする必要がある.しかし,交通行動分析に用いられる行動モデルの多くが,意思決定者は完全情報を有しているという仮定の下に構築されている.そこで本研究では,まず,完全情報の仮定を緩和した行動モデルの開発を行なった. 意思決定者は情報を保有していなかったり,情報を保有していた場合でも,それを大して重視しない等の理由で,全ての交通サービス属性を評価しているとは限らない.加えて,どの属性に着目して意思決定を行うかは,個人ごとに大きく異なる.本研究では,そのように分析者にとっては不確実である各個人の評価属性を,潜在クラスアプローチにより確率的に表現することにより,評価属性の差異を考慮した行動モデルを構築した.構築したモデルを,仮想の状況下における経路選択SPデータに適用した結果,既存のモデルと比較して現況再現性が向上すると共に,サービスレベルの変化に対しても,現実世界と整合的な挙動を示すことが明らかとなった. 次に,情報提供が都市圏全体での交通需要に及ぼす影響を分析するために,ドライバーの完全情報の仮定を緩和した均衡配分手法の開発を行なった.ドライバーを所要時間及び道路ネットワークの認知状況に応じて異なるセグメントに分割し,所要時間が不完全な場合は最短経路へのall-or-nothing配分,ネットワーク情報が不完全な場合は経路集合を限定した確定的利用者均衡配分というように,セグメントごとに異なる配分原則を適用した.その結果,全体の約20%のドライバーが不完全情報下で経路選択を行なっているとした場合に最も現況再現性が高いという結果が得られた.また,提案モデルを用いて,通常時及び事故・災害時における経路所要時間情報の効果を算出したところ,共にかなり大きな便益が得られることが示された.
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