昨年度に引き続き、実際の都市下水処理場流入水を用いた膜分離バイオリアクタ(MBR)の実験を行った。今年度における最も重要な発見は、中空糸膜ミニモジュールの膜面付着微生物の解析(クローニング及び16S rDNAのほぼ全長解析)により、低負荷運転においてもγProteobacteriaに属する細菌群、特にポリマー生産において高いポテンシャルを有するXanthomonas spが膜面に特異的に増殖することが明らかとなり、浮遊微生物群集の構造と大きく異なることがわかったことである。これらが、膜のバイオファウリングの引き金となる可能性が高い。従って、細菌種が特定できたことにより、その制御因子を今後具体的に求めていく上での展望が開けた。また、MBRのフロック成長と浮遊高次微生物群の捕食圧を考慮したフロック形成シミュレーションを行った結果、高い捕食圧の下ではフロックが球形から扁平な形状に移っていくこと、すなわち2次元に投影したフロック長が長くなっていくことが再現できた。これはこれまでの観察結果に合致するものである。従って、MBRで特徴的な微細フロックの制御に、高次の微生物群が大きく寄与できる可能性を示すことができた。特に浮遊微小動物の存在が大きな鍵を握る。これは、ポリウレタン等の付着担体に微小動物を増殖させても、膜面及び浮遊微生物群集構造の変化に寄与しないことからも言え、付着型より浮遊形の微小動物の影響が大きいといえる。また、フロック内の拡散や物質移動に関するフロック形状の違いの影響についても新たな解析方法による数値シミュレーションを行った。さらに、高機能微生物としてCoriolus versicolorを優先的に増殖させたMBRを染色排水処理に適用した結果、極めて高い色度除去性能を容易に達成できることを示した。これらの今年度得られた結果と昨年度までの結果を総括し、汚泥管理の方法や高機能化への指針を得て、最終の成果報告書にまとめた。
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