研究概要 |
現在、人間による開発行為などにより,数多くの生物が自然のスピードの何倍もの速さで絶滅の危機にさらされている.近年,こうした状況の中で生態系の保全を図ろうとする動きが大きくなっている.しかし,その保全手法には未だ定性的なものが多く,保全手法を明確にし,開発現場での生態系の保全に応用するには,定量的である必要がある.とりわけ人間の暮らしには水が密接に関わっているので、水域の生態系への人間による影響は大きい.そこで,本研究では,水域生態系の生息環境の定量的な評価をし,最終的には,洪水等による環境改変や,個体群の人口学的なゆらぎを考慮した絶滅確率指標とする保全手法を確立することを目的とし、研究対象種として,宮崎県延岡市の五ヶ瀬川水系北川の感潮部に生息する稀少種カワスナガニを選定した.第一に,この北川感潮域に生息するカワスナガニの分布状況を把握するために,縦断方向の生息分布調査を実施し,河口から4.8〜6.4kmの範囲にカワスナガニが多く生息することを明らかにした.また,第二に,カワスナガニの選好性を調査し,カワスナガニは中礫程度の礫床,低塩分、水温17℃程度の生息環境を好むことを明らかにし,それぞれの環境因子を統合し,定量的に評価し得た.第三にカワスナガニの生活史をモデル化し大量出生、大量死滅型の生物の保全手法を明らかにした。第四に未知であったカワスナガニの生活史を明らかにするために,カワスナガニの雌の卵を実験室で孵化させ,生育する実験を実施した.これにより,カワスナガニの幼生は,5期のゾエア期を経てメガロパ幼生になること、および、その形態を明らかにした.さらに,数値シミュレーションにより,北川感潮減での水理水質変動を再現し,ゾエア幼生の挙動を明らかにした。
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