本研究では、薄膜成長中の原子、分子レベルの成長機構を用いて、薄膜成長をコントロールすることを目的としている。具体的には、単原子層厚の二次元成長核の形を制御することによる、薄膜の成長様式(層状成長or三次元成長)の制御を試みる。この種の研究は国内外でも例が無く、成功すれば、薄膜の構造制御法に対する全く新しい視点を提供することとなる。本年度は現在開発中の改良型STM装置に走査型電子顕微鏡の取り付けを行った。改良型STM装置では、針状に成型された試料の先端をSTM観察することで原子の表面拡散の直接観察を行う。本装置ではある一定時間、探針を遠ざけた状態で原子を自由に拡散させ、その後、試料を20Kまで冷却し、すべての表面上のプロセスを凍結した上で、探針を近づけ原子の位置を観察する。この過程の繰り返しにより、観察の影響を受けない原子の自由な運動を調べることができる。このため、試料の加熱、冷却を繰り返すこととなるが、試料の熱膨張、熱収縮によりSTM探針と試料の位置がずれてしまう。本年度は、STMチャンバーへの走査型電子顕微鏡の取り付け、立ち上げを行った。これにより試料の望みの位置へSTM探針を効率的に移動させることが可能となった。また、これと並行してベンゼンジチオール分子の成長機構の観察を行った。この分子は金表面上で単分子膜を形成することが知られており、この薄膜を用いた超微細な分子トランジスタの形成が報告されている。観察の結果、良好な単分子膜の形成が確認され、分子は表面に対して垂直方向を向いていることが確認されたものの、面内方向での規則性は観測されなかった。今後は、上記装置により成長機構を詳しく調べ、規則性の高い分子膜の形成を目指す。
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