粒径が数ナノメートル程度の超微粒子(ナノ粒子)は、対応するバルク固体に比べて著しく異なる性質を示すことから、基礎と応用の両面から活発な研究が行われている。本研究では試料として混合熱が小さな負の値を持つインジウム-スズ系を取り上げ、合金化挙動を観察するとともに形成される合金ナノ粒子の熱的な安定性を電顕法によって調べた。 実験装置としては、双源蒸着装置を装着した200kV透過電子顕微鏡を用いた。室温に保持されたアモルファスカーボン(もしくはグラファイト破片)支持膜上にインジウムを蒸着させ、インジウムナノ粒子を形成させた。次にそれらの上に第2のソースからスズを蒸着させて、インジウム-スズ合金ナノ粒子の形成過程を観察した。さらに、形成された合金ナノ粒子の加熱・冷却実験を行い、生じる相の遷移を追跡した。 実験の結果、次のことが判明した。(1)インジウムナノ粒子中へのスズの合金化は室温においても少なくとも二十秒以内に生じる。(2)合金ナノ粒子の構造は、スズ濃度の増加と共に、In固溶体、液相、Sn個溶体と変化する。(3)室温で得られた液相ナノ粒子は、-50℃近くまで冷却するとアモルファス化する。この冷却中に結晶化の兆候は認められない。また、このアモルファスナノ粒子を加熱してゆくと、室温に至るまでの温度で液相に変化する。このことはアモルファスナノ粒子がバルクの場合とは異なり、熱的に安定であることを示唆している。 これらの結果に基づいて、インジウム-スズ系合金ナノ粒子における、熱力学的融点とガラス遷移温度の相対的位置関係を考察した。
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