本研究では、粒径が数ナノメートル程度の超微粒子(以下、ナノ粒子)に特徴的に出現する熱力学的に安定なアモルファスの成因を明らかにする目的で、試料として混合熱がほとんど0の値を持つスズ-ビスマス系を取り上げ、電子顕微鏡その場観察法によって合金化挙動ならびに相の安定性を直接観察した。 その場観察には、双源蒸着装置を装着した200kV透過電子顕微鏡を用いた。室温に保持されたアモルファスカーボン(もしくはグラファイト破片)支持膜上にスズを蒸着させ、スズナノ粒子を形成させた。次にそれらの上に第2のソースからビスマスを蒸着させて、スズ-ビスマス合金ナノ粒子の形成過程を観察した。さらに、形成された合金ナノ粒子の加熱・冷却実験を行った。 その結果、次のことが明らかにされた。(1)蒸着されたビスマス原子は急速にスズナノ粒子中に固相状態で溶け込み、アモルファスが形成される。(2)このとき、アモルファス中に見られるソルト・ペパーコントラストはその濃淡位置をゆるやかに変動させている。このことは、アモルファス中で位相コントラストを変化させるに充分な原子移動が生じていることを示している。(3)これらのアモルファス合金ナノ粒子を加熱すると、結晶化することなく液体に変化し、また室温に冷却するとそのままアモルファスに戻る。 こうした観察から、ナノ粒子では共晶温度(Teu)の大幅な低下により、液相安定温度領域内にガラス化温度(Tg)が位置する状況が生まれ、その結果、TgからTeuまでの温度範囲にわたって、熱力学的に結晶相よりも安定なアモルファスが形成されることが分かった。
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