本研究課題では、安全で安価な「可視光」で構造変化をする、あるいはホトクロミズムを呈する酸化物を探索すること及び現象の機構を明らかにすることを目的とする。Y系高温超電導体YBa_2Cu_3O_xが可視光照射により構造変化をすること、また五酸化バナジウムV_2O_5が可視ホトクロミズムを呈することが明らかになった。本年度は主としてこれらの物質系における光スイッチング過程と可逆性とについて詳しく研究した。 (1)YBa_2Cu_3O_xにおける光誘起構造変化ならびに光スイッチング過程 YBa_2Cu_3O_x単結晶に515nmの緑色のレーザーを照射しながらラマンスペクトルを測定すると、CuO鎖に関する欠陥誘起モードの強度が時間と共に減少し、準安定状態に移行することが明らかになった。次に900nmのレーザーを照射すると再び元の状態に戻ることが明らかになった。波長の異なる2つの光を使うことにより光誘起構造変化を可逆的に引き起こすことができ、また光スイッチとして利用できることがわかった。 (2)五酸化バナジウムにおける可視光ホトクロミズムの可逆性の評価 五酸化バナジウム多結晶体ペレット上に515nmの波長を持つ緑色のレーザーを照射したところ、V^<5+>の光還元に由来する青黒色に変化した。この着色は400℃の加熱処理により消去され、以後着色と脱色は何度でも繰り返すことができた。V_2O_5における可視光ホトクロミズムの可逆性を評価するために、蛍光スペクトルの測定を実施した。着色のためのレーザー照射と脱色のための加熱を繰り返したときの蛍光強度の変化を測定したところ、加熱するたびに蛍光強度はもとに戻り、V_2O_5の可視光ホトクロミズムは良好な可逆性をもつことが明らかになった。
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