研究概要 |
生体活性セラミックスは,骨と異物反応なしに直接結合する特異な生理学的活性を示すため,骨修復材料として臨床使用されている。しかしこれらは脆性であるため,大腿骨など大きな荷重の加わる部位を置き換えることはできない。そこで生体活性と骨に近い力学的性質を併せ示す素材が求められている。セラミックスが生体活性を示すためには,体液との反応により材料表面に骨類似のアパタイト層が形成されることが必須条件になる。このアパタイト層の形成には,シラノール(Si-OH)基とカルシウムイオンが基礎成分として働く。これらの知見に基づけば,有機高分子をSi-OH基を与える3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MPS)と,水溶性カルシウム塩で化学修飾して得られる有機-無機ハイブリッドは,生体活性を示す新素材になる。しかし,ハイブリッドに導入される有機高分子や官能基の種類がその生体活性ならびに力学的性質にどの様な影響を与えるかについては未だ明らかでない。そこで本研究は,種々の有機成分や無機成分を導入した高次な有機-無機ハイブリッドを合成し,その微構造,生体活性ならびに力学的性質に影響を及ぼす因子を基礎的に追究することを目的とする。 本年度は主として,ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)やメチルメタクリレート(MMA)にMPSのモノマーを導入して有機-無機ナノハイブリッドを合成した。HEMAとMPSからHEMA : MPS=0.99 : 0.01〜0.90 : 0.10(mol比)の範囲において得た重合体に0.05(mol比)以上のCaCl_2を添加すれば,HEMA : MPS比に関わらず擬似体液中で1日以内に表面にアパタイトを形成した。有機-無機ハイブリッドに可塑剤としてグリセロールを添加することにより,アパタイト形成能を低下させることなくハイブリッドの柔軟性を向上できることが明らかになった。これらの結果からアクリル系の有機高分子を基材に用いて,骨結合性と柔軟性を併せ示す新規な有機-無機ハイブリッドの合成が可能となった。
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