研究概要 |
アルミナ・マトリックス中に分散した金属間化合物NiAlの酸化により生じる体積膨張を利用して,表面に残留圧縮応力を持つ酸化被膜を自己組織化させた三層型積層複合材料について,昨年度までに,アルゴン中で無加圧焼結できる粉末の作製法を確立し,最大130MPaの表面圧縮応力と6.9〜8.1MPa・m^<1/2>に達する破壊靭性値を実現した。本年度は,NiAl添加量を5vol%と10vol%にした2種類の材料を作製し,材料組成と表面酸化層の構造,残留圧縮応力,機械的特性との関係を中心に検討した。処理温度1300℃から1400℃で表面を酸化すると,酸化層の厚みはNiAl添加量に依存せず,処理条件のみに依存して20μmから55μmとなった。この厚みと表面の酸化度などから求めた残留応力の期待値は厚み20μmまではX線法による測定値と良く一致し,破壊靭性値の増加に対する残留応力の寄与率が80%以上であることがわかった。しかしながら,酸化層の厚みが50μmになると,寄与率は50%以下に減少し,表面層内部に残留応力の勾配が生じることを示唆していた。表面層の体積変化に関係したパラメータとしてNiAlの添加量と酸化度の積をΨで表すと,最表面部の組織は,Ψ<0.08でネットワーク状,Ψ>0.08で緻密な皮膜状となった。このとき,NiAl添加量が少ない5vol%では,表面部のNiAlがほぼ100%酸化されてもΨは0.05以下で被膜状にはならず,ネットワーク構造が保たれた。酸化処理した積層型材料の破壊靭性値は5vol%NiAlで最大8.3MPa・m^<1/2> (Ψ=0.48),10vol%NiAlで最大6.3MPa・m^<1/2> (Ψ=0.86)であったが,前者の破壊靭性値は残留応力から期待される値よりも大きく,これには粒界に発達した酸化生成物NiAl_2O_4のネットワークヘの亀裂の誘導偏向などの副次的なメカニズムが作用している可能性が示唆された。
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