研究概要 |
本年度は、有機ハイブリッド系制振材料の構成成分の選定を行った。高分子マトリックスとして、力学的損失正接(tanδ)の高い塩素化ポリエチレン(CPE),アクリルゴム(AR)とガラス転移領域の広いCPE/ARブレンド体を選定し、分散成分である有機低分子誘電体として、マトリックス内でのドメイン構造形成能およびマトリックスとの相互作用を考慮して、N, N'ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)と4, 4-チオ-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)(BPSR)を選定した。CPE/DZ, AR/BPSRおよびCPE/BPSR/DZ系の3種の有機ハイブリッド材料について相構造と有機低分子の分散状態を観察し、tanδの温度依存性を測定した。CPE/DZ(50wt%)ハイブリッド体はDSC融解ピークのブロード化、SEMおよびEDX観察によるシリンダー状ドメインの存在とドメイン中でのCPEとDZの共存が確認されCPEマトリックスとDZ結晶が混在して自己組織化した超分子構造を有した棒状ドメインの形成が観測された。ドメイン径の減少とともに貯蔵・損失弾性率と垂直吸音率の増大が観測された。AR/BPSR(50wt%)では相溶系であり、経時安定性の極めて良好な制振性能を観測した。この系ではFT-IRの測定から構成成分間に水素結合による相互作用が確認された。AR/CPE/DZ(50wt%)系ハイブリッド材料ではマトリックスのARとCPEは相分離しており添加したDZはCPE相に選択的に分散している。tanδの温度特性の測定からAR, CPE/DZそれぞれに起因するピークのためガラス転移領域が広くなり、そのためガラス転移領域のピーク面積が大きくなりAR, CPE両者の温度特性を生かした有用な制振材料の可能性が示された。又これら3種のハイブリッド材料に3vol%の炭素繊維を添加することにより損失正接を維持しながら弾性率を数倍増大させる効果も観測できた。
|