Si基板上に拡散バリアとしてのTa層を20nmスパッタ成膜した後に、シード層としてのCuを50nmスパッタ成膜し、その後種々の条件で電解メッキを行なってCu薄膜を成膜した。Cuの配向は成膜条件によって、強い111配向を有する膜とランダム配向を有する膜の2種類が成膜できた。この膜を真空雰囲気において室温から450oCまで加熱・冷却しボイドの形成状況をSEMを用いて観察した。その結果、111配向膜には1ミクロン以下のボイドが形成されていたが、ランダム配向膜にはボイドの形成は認められなかった。ボイド形成の原因を調べるために、ボイド形成箇所のTEMによる組織観察、局所配向解析を行い、これらの結果をもとに有限要素法による応力解析を行なった。その結果、111配向膜におけるボイドは双晶角部に形成されており、ボイド形成箇所には強い応力集中が生じていることが明らかになった。一方、ランダム配向膜においても、双晶角部における応力集中は確認されたが、ボイド形成は見られなかった。また、双晶界面方位の解析を行なった結果、111配向膜の双晶は非整合な{322}双晶であり、ランダム配向膜は整合な{111}双晶であった。これらの結果を総合すると、ボイド形成傾向に関して次のことが結論できる。111配向膜における非整合双晶は界面の結合力が弱く、Cuの強い弾性異方性による応力集中下においてせん断剥離が生じ、ボイド形成にいたる。これに対してランダム配向膜における整合双晶は界面の結合力が強く、同程度の応力集中下においても剥離が生じず、ボイド形成も生じない。従って、従来の配線材料であるAlにおいて111配向膜が高い信頼性を有すると理解されており、この経験に基づいてCuにおいても強い111配向を形成しようとする研究の方向があるが、これは間違いであり、ランダム配向のほうが好ましい配向であることが明らかになった。
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