今年度は超微細粒合金のひとつとして、主としてパーライト(フェライト・セメンタイト)組織を取り上げ、強塑性加工に伴う組織変化と変形強度について検討した。中性子回折実験は高エネルギー加速器研究機構に設置されているVegaおよびSirius、原研改造3号炉に附設されているRESAを用いた。まず、ミクロ組織状態の異なる5種類の引張試験片、(1)パーライト組織、(2)線引き加工まま、(3)低温時効材、(4)亜鉛メッキ相当の焼鈍材および(5)セメンタイト球状化組織を用意した。強度は大きい方から(3)、(2)、(4)、(1)、(5)の順番であり500MPaから2GPa以上へと大きく変化した。同じセメンタイト体積率でも、このように強度が異なる原因はミクロ組織の相違によるものである。組織制御に伴う内部変化を中性子回折により検討した。続いて、引張変形中のその場中性子回折により塑性変形中の各構成相の格子ひずみ(応力分配)を測定した。さらに、変形機構を表面変化から定量的に捕らえるために、レーザー顕微鏡を用いて引張変形中の表面起伏変化を定量的に測定し変形の不均一性を調べた。 パーライト組織はフェライトとセメンタイトから構成されるが、塑性加工によってセメンタイトが溶解しフェライト中に炭素が過飽和固溶することを高分解粉末回折装置SIRIUSによって明らかにした。また、伸線加工により超微細化した線材には残留相応力が存在すること、その応力に異方性があること、これに関連して強度は異方性を示すことを見出した。次に、パーライトの引張変形下におけるフェライトとセメンタイトの格子面変化をRESAで測定し、セメンタイトが負担している強度を初めて実測した。これにより強度に及ぼすセメンタイト形状の影響などが明確になった。
|