昨年度に引張変形中のその場中性子回折実験によって明らかにしたパーライト組織鋼の外力下におけるフェライト相の応力状態および伸線加工により生じる残留相応力に関して、今年度は回折強度の弱いセメンタイト相における測定に焦点をあてた。実験は、あらかじめ集合組織を与え、かつ残留相応力の存在しない高強度な試料を作製することから始まり、中性子角度分散法(原研RESAを使用)および飛行時間法(高エネ研SIRIUSを使用)による引張変形中のその場測定を試みた。その結果、セメンタイトの結晶格子ひずみの変化からパーライト組織に1.6GPaの外力が負荷されている状態で、セメンタイトは約4.3GPaの応力を負担していることを明らかにした。このとき、フェライトとセメンタイトの相応力間に平衡関係がほぼ成り立つことを示せたので、昨年度のフェライト相のみの測定結果からの推定が妥当であることが実証された。続いて、炭素含有量、すなわちセメンタイト体積率がパーライトの変形特性に及ぼす影響を3種類の鋼を用意し、その場中性子回折により調べ、微細2相組織における構成相間の応力分配と試料全体のマクロな変形挙動の関係を明らかにした(論文投稿中)。 フェライト単相合金に強度な伸線加工して、ナノ組織化した。この試料の残留応力測定から、結晶粒方位差に起因する塑性ひずみ差が残留応力(粒応力)をもたらすこと、さらに引張変形中のその場中性子回折により、フェライトが超微細粒化により現実に0.6%以上の弾性ひずみ変化を起こし得ることを(110)格子面間隔変化から明らかにした。単相合金の結果から、上記のパーライト鋼の結果、さらに強伸線加工材でセメンタイトが溶解しナノ組織化した鋼の塑性変形機構が予想できるようになった。
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