研究概要 |
平成15年度においては,平成14年度の研究の継続として,純アルミニウム単結晶の繰り返し変形に伴う転位組織形成過程を調査した.すなわち,前年度の研究で顕著な疲労軟化が観察された[1 1 20]方向に応力軸を持つAl単結晶試料を繰り返し変形させることによって生じるいわゆるlabyrinth転位組織を詳細に観察した.その結果,labyrinth組織は{001}面上に乗った2組の転位壁よりなること,および,各々の転位壁は,刃状転位をキンクとして持つ,主すべり系と臨界すべり系の長いらせん転位により形成されていることを見出した.このような転位壁は,たとえば純Cuのladder組織に見られる,主すべり系の転位のみからなる{110}面に平行な転位壁とは異なるもので,その形成にはAlの積層欠陥エネルギーが低いことが本質的な役割を果たしていることを明らかにした. 以上の結果から,同じAlでも合金化によって積層欠陥エネルギーを下げれば,疲労挙動と転位組織形成過程が異なってくることが予想された.そこで,少量のMgを添加したAl-0.7wt%Mg合金の単結晶を作製し,主すべり系が活動しやすい方位を応力軸に選んで繰り返し変形を行った.この試料の主要な実験結果としては,(1)純Alとは異なり,繰り返し硬化曲線に軟化域が見られなかったこと,および,(2)純Cuなどで特徴的な固執すべり帯形成に伴ういわゆるladder転位組織が明瞭に形成されていたこと,が挙げられる.すなわち,Al-Mg合金単結晶の繰り返し変形挙動と内部転位組織の発達過程は,純Cuで代表的に見られるものと本質的に同様であることを明らかにした. このように,fcc金属の疲労挙動と転位組織発達過程は,積層欠陥エネルギーをパラメーターとして非常にきれいに整理できることが,本研究の結果明らかになった.
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