本研究では、粉体原料の化学反応によりセラミック微粒子を金属マトリックス中に"その場"生成させるという新しい反応合成プロセスに注目し、これまでAl-Ti-B系の元素粉末原料から生成させたサブミクロンオーダーの微細なin-situ TiB_2粒子と、粗大粒子(平均粒径約10μm)として上記原料に添加したex-situ TiB_2粒子によるバイモーダルな粒子分散組織を有するAl基の金属基複合材料(MMC)を作製し、さらに比較材として準備した微細なin-situ TiB_2粒子およびex-situ TiB_2粒子のみから成るユニモーダル粒子分散MMCも含めて、室温〜400℃の温度域における動的ヤング率の測定および400℃でのクリープ試験を行い一連の系統的な実験データを取得してきた。本年度(最終年度)は異なる温度(300℃、500℃)でのクリープ試験データも追加取得し、これらの実験結果について筆者ら独自の微視力学解析を通じて定量的な検討を行った。すなわち、従来看過されている粒子-マトリックス界面での拡散流動による強化粒子の応力緩和が重要である点に着眼し、(1)この粒子サイズに依存する局所的な拡散流動が、約150℃以上で観測したMMCの剛性低下の原因であること、また、クリープ変形に関しても(2)マトリックス自体の転位クリープは単に硬化過程をもたらすにすぎず、定常クリープ状態には軟化過程として上記の界面拡散流動を必須とする筆者らの"達成流れ(coupled flow)"モデル(Acta Mater.48(2000)891-901)を用いて、実測したクリープ変形に対する'しきい応力'レベル、最小クリープ速度の負荷応力依存性、クリープ損傷(界面剥離、粒子破壊)の有無、等に及ぼす粒子サイズの効果を定量的に考察し、本研究テーマであるバイモーダル粒子分散組織の効用を明らかにした。なお、本年度の後半には、新たにAl-TiO_2-B系を原料とするTiB_2粒子とAl_2O_3粒子の同時in-situ生成も研究対象とし、詳細な熱分析(DSC)実験およびX線回折(XRD)による相同定を通じてその反応メカニズムを解明した。この成果は、今後のin-situ粒子強化Al基MMCの開発研究に資するものと考えている。
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