【背景】CdTe半導体は医療用X線カメラ等の高感度放射線検出器への適用が期待されている。検出感度向上にはショットキー特性を有する電極材が必要となるが、従来のCdTe半導体用ショットキー電極材には使用後数分間で検出効率が著しく低下するという問題があり、これが実用化の大きな障害となっている。本年度は種々の条件で成膜したIn基電極材の微細構造と検出特性の関係を詳細に検討し、高性能電極材の開発の指針を得ることを目的として実験を行った。 【実験方法】p型CdTe半導体基板の(111)B面(Te-rich)に、種々の基板温度でIn(300nm厚)を真空蒸着した。裏面の(111)A面(Ca-rich)にはオーミック電極材となるPtを無電解めっき法により成膜した。必要な場合には、200℃〜400℃の熱処理を施した後、放射線検出特性の測定、およびX線回折法、集束イオンビーム装置、透過型電子顕微鏡による電極材の微細構造解析を行った。 【結果】基板温度をInの融点以上に加熱してInを真空蒸着した場合、成膜中にCdTe基板と反応を起こすため単体Inはほとんど残存しておらず、主にIn-Te化合物から成るショットキー電極材が形成された。これらの電極材では従来報告されているショットキー電極材よりも高い検出感度が得られたが、比較的低温で成膜した電極材では検出特性の劣化は顕著であった。検出感度の劣化は、同電極材をより高温で熱処理することにより抑制された。微細構造解析から、検出感度の劣化が顕著な電極材はIn_4Te_3を主成分とする粗大結晶粒(粒径300nm程度)から成るが、より高温の熱処理を施した試料では微細結晶粒(粒径数+ nm程度)のInTeが生成しており、同構造が高性能電極材に不可欠であることが明らかとなった。微細InTe粒から成る電極材は基板温度を高温加熱して成膜することにより熱処理を施すことなく得ることができ、最も検出特性の良いものでは従来よりも高い検出感度を有し、且つ1時間の使用後も検出感度の劣化がほとんど見られなかった。本年度の結果から、電極材の微細構造・界面構造制御が極めて有効であることが明らかになった。
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