研究概要 |
本年度の研究成果は以下のとおりである. 【アモルファス窒化炭素薄膜の作製】本年度は,以下の手法を用いて窒化炭素薄膜の作製を行った.(I)シールド型アークイオンプレーティング装置:ターゲットには純度99.999%のグラファイト焼結体を用いた.成膜パラメータとして,導入ガス組成および基板バイアスを制御した.(II)誘導結合型高周波プラズマCVD装置:原料ガスとしてメタンおよび窒素を用い,成膜パラメータとして,基板バイアスを制御した.(III)真空紫外光CVD装置:原料ガスとしてピラジン,ピリミジン等の含窒素複素芳香族分子を用い,成膜パラメータとして原料分子の種類と基板温度を変化させた. 【アモルファス窒化炭素薄膜の化学結合状態】非経験的分子軌道法を用いて,アモルファス窒化炭素のXPS N1s, C1sスペクトルの化学結合状態解析を行い,さらにIR,ラマン,ESRおよび固体NMRの測定結果を総合して,作製膜の化学結合状態を明らかにした.(I), (II)で作製した試料は,基本的に窒素含有sp^2 C(sp^2 C:N)ネットワークが主体となっており,Nの存在によってその秩序度が低下している.基板バイアスの印加は,Nを選択スパッタリングさせる効果と,-Hや≡N等の終端構造を除去する効果を有する.前者はsp^2 C:Nの秩序度の上昇に伴うグラファイト化を引き起こし,後者はネットワークユニット間の架橋構造を増加させる.一方,(III)で作製した試料は,基本的に光開裂した原料分子フラグメントの重合的結合状態である.基板温度の上昇は,窒素含有フラグメントの脱着のため,窒素組成の低下と成膜速度の大幅な減少を引き起こす. 【化学結合状態と機械的特性の相関】秩序度の低いsp^2 C:Nネットワークと,それらのネットワークユニット間の架橋結合の存在が,アモルファス窒化炭素の優れた機械的特性の根本であることが明らかとなった.
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