1)β-FeOOHさびの生成に及ぼすアニオンの影響 環境中のSOx、NOx、海塩粒子などは、鋼材の腐食に大きな影響を与えることが知られている。鋼材さび生成へのこれらの因子の影響を明らかにする目的で、本年度はβさびに注目し、硫酸および硝酸イオンを含む種々のアニオンの影響を詳しく検討した。その結果、βさびの生成には硝酸イオンは殆ど影響しなかった。硫酸イオンは、βさび中に取り込まれ、粒子を多孔性にした。さらに、鋼材の表面処理に使われるリン酸および珪酸イオンの影響を調べた。少量のリン酸イオン添加でβさびの生成が著しく妨害され、粒子の微細化が起こった。したがって、リン酸はさび層を緻密にすることが分かった。リン酸処理は、βさびが多く含まれる海岸付近での防食に有効であると言える。一方、珪酸イオンでは、少量添加でさび粒子の成長が見られ、珪酸塩処理はβさびの微細化には役立たないことが分かった。 2)γ-FeOOHさびのα-FeOOHさびへの転移 無塗装で使用される耐候性鋼材のさび組成は経時変化し、暴露より安定なさび層へと変化する。これはさび成分間で種々の相転移が起こっているからである。その相転移の中で重要なものは、γさびの熱力学的により安定なαさびへの転移である。そこで、このγ→α転移のメカニズムと合金元素の影響を調べた。その結果、γ→α転移は、FeSO_4の共存を必要とする溶解析出反応であることが明らかになった。さらに、合金元素の影響においては、溶液中に含まれる合金元素イオンは転移を妨害し、γさび中に取り込まれた合金元素イオンは転移を促進することが明らかになった。
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