研究概要 |
電解析出法は電析基板を予め目的の形状にしておけば、材料の創製と成形を同時に実現できる優れたプロセスと言える。しかしながら,電解析出法により作製された硬質合金の多くは非常に脆く,その応用は大きく制限されている.著者らはこれまでに,高強度・高靭性を有するアモルファス及びナノ結晶Ni-W合金が電解析出法により作製できることを示し,これら合金の強度・靭性は結晶粒子サイズに強く依存して変化することを示した.また,これら合金の機械的性質は,電析時に合金中に混入する水素及び酸素等の微量不純物元素にも大きく影響されると考えられる.本研究では,電析条件及び電解浴中の溶存酸素濃度等を制御することにより,電析合金の強度・靭性に及ぼす組織及び不純物元素等の影響について検討した. 本研究に用いた電解浴は,硫酸ニッケル,タングステン酸ナトリウム,クエン酸3ナトリウム(Na_3-Cit.)を主成分としたものを用いた.電析Ni-W合金の機械的性質は硬度,曲げ破断歪及び引張破断強度の測定により検討した.電解浴中の溶存酸素は電解浴をArガスでバブリング処理することによって除去し,溶存酸素メータ(堀場製作所OM-14)を用いて残留溶存酸素量を測定した. 電析Ni-W合金のW含有量,組織及び機械的性質は,電解浴中のNa_3-Cit.添加量と浴温度に大きく影響された。Na_3-Cit.=0.14mol/Lの場合,電析中に合金に混入する水素及び酸素量は浴温度50℃のとき最小となり,完全密着曲げ状態でも塑性変形を生じて破断しない高強度・高靭性のNi-12.3at.%Wが得られた.TEM観察から約5nmの結晶粒径を有するナノ結晶組織が観察され,最大引張破断強度は1400MPaに逮した.予め電解浴中の溶存酸素量をアルゴンガスのバブリング処理により低下させても,合金中に混入する水素および酸素量は同様の結果を示した.このような最適電析温度はNa3-Cit.添加量の増加とともに上昇した.高強度・高靭性を示したNi-12.3at.%W及びNi-20.7at.%Wナノ結晶合金について,結晶粒径が10nm以上になると両合金とも激しい脆化状態を示した.硬質のナノ結晶粒子がfcc状に最密に充填したナノ構造モデルを考え,塑性変形は最密にナノ粒子が充填した粒界面に沿って生じると仮定し,塑性変形を容易に生ずる臨界結晶粒径について考察した.
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