研究概要 |
著者らは,これまでに高強度・高靭性を有するナノ結晶Ni-W合金が電解析出法により作製できることを示してきた.しかしながら,本合金は電析時の引張り残留応力が大きく,マイクロ部品への応用は困難とされている.本研究では,電着時の引張り残留応力の低減化条件と電析合金の組織との関係を検討した.また,本合金を用いて電解析出法によるマイクロ金属構造体の作製を試みた. 本研究で使用したNi-W電解浴は,硫酸ニッケル,タングステン酸ナトリウムを用い,錯化剤としてくえん酸三ナトリウム二および硫酸アンモニウムを成分とし,電解浴温度は30℃から80℃の範囲で,電解電流密度は0.02から0.2A/cm^2の範囲で変化させた.またpH値は約7.3とした.残留応力の測定は基板(銅,ベリリウム銅)の片面のみに電析し,そのときの基板の湾曲歪量より求めた. 本研究では電析時の残留応力に及ぼす電解浴温度,電解電流密度の影響について検討した.浴温度の変化に伴い,電析合金中に含まれる酸素及び水素の含有量が変化し,それらの値が最小となった浴温で作製したものに高靭性が認められた.この条件において,電流密度が0.03A/cm^2では10MPa/μmを超える高い残留応力を示したが,0.04〜0.06A/cm^2で平均結晶粒径は4〜8nmであり,高い靭性を有するNi-W合金が得られ,電着時の残留応力も2〜4MPa/μmと大きく低下した.電流密度が0.07A/cm^2以上になると再び残留応力の増加が見られ,結晶粒サイズの増加する傾向が見られた.サッカリン添加の効果により最小残留応力は約2MPa/μm以下に低下し,本条件において幅30μm,長さ200μmのサイズのレジストパターン間への電析が可能であることを確認した.
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