研究概要 |
電解析出法により高強度・高靭性を有するNi-Wナノ結晶合金の作製が可能であることを示した。Ni-Wナノ結晶合金は明瞭な延性-脆性遷移温度(DBTT)を有しており、DBTTが室温以下の条件で、応力と加熱を加えると熱可塑性を生じて、これら材料の高強度・高靱性を維持したままで精密な成形加工ができることを示した。一方、ナノ結晶合金は、加工硬化性を示さず、引張変形を加えると変形が局所的に生じて、僅かな伸びで破断する欠点を有する。 本年度は、これらナノ結晶合金に大きな塑性変形能を付与させることを目的として、ナノ結晶組織中に電解析出法とフォトリソグラフィーによるマイクロ成形加工技術とを組み合わせて,微細な穴を意図的に配置することにより塑性変形開始点を分散させた組織を作製し,引張強度を測定した.引張試験には歪ゲージを使用し,試験後は顕微鏡を用いた表面観察を行った. ナノ結晶Ni-W電析合金は,明瞭な延性-脆性遷移温度(DBTT)を有し,180℃以下の加熱処理においてDBTTは室温以下で飽和した.この時,本材料は脆化することなく熱可塑性を示し,成形加工を行うことが可能であった.また,本合金は熱処理中に収縮挙動を示し,これは結晶粒成長に伴う粒界体積率の減少によるものと考えられた.さらに,ナノ結晶Ni-16 at.%W合金中に,直径0.02および0.03mmの微小な穴もしくは高分子レジストを0.10mmの間隔で緻密に配列させた混合組織を作製し,引張試験を行った.その結果、緻密な穴を配列させることにより,引張破断強度は穴のない試料での1700MPaに比べて2200MPaまで上昇し、極めて高い引張破断強度を示した。さらに、破断歪量も1.0%から1.2%へと増加した.穴のないNi-W合金のみの試料では引張変形時の塑性変形が局所的に限定して生じたが,合金中に微細な穴を並べた試料においては,穴の周辺にいくつものすべり線が観察されたことから試験片全体に局所降伏が生じ、塑性変形が分散されたために,高強度を示したものと考えた.
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