我々は丸棒状の高分子鋳型を皮下に埋入させることによって形成される管状組織体の人工血管への応用について検討を行っている。これまで市販の高分子製の棒を用いると高分子の種類によって形成される組織体の力学的性質が大きく異なることを示した。本年度は、その要因を調べる目的で、同一基材を用いてナノレベルの極表層の化学組成を種々変化させた高分子鋳型を作製し、これを兎皮下に埋入させ、組織体の形成とその構造に及ぼす表面化学組成依存性を調べた。ジチオカルバメート化ポリスチレンをコーティングしたアクリル製丸棒(直径3mm、長さ3cm)を各モノマー(ジメチルアクリルアミド、アクリル酸、ジメチルアミノプロピルアクリルナミド、スチレン、トリフルオロエチルメタクリレート)溶液中で紫外光照射することにより表面グラフト重合を行った。AFMで見積もったグラフト厚は数百nmであった。これら表面グラフト化アクリル棒を兎皮下に埋入させると2週間後には撥水性表面基材を除く全ての表面修飾基材の周囲にカプセル状の管状組織体が形成された。組織体の壁厚は表面化学組成に依存し、平均50-150umで変化した。埋入1月後では、基材によらず厚さ平均約100umのほぼ均質な壁を有する組織体を形成する割合が増加した。組織体の内腔に水圧を徐々に200mmHgまで付加しても破断することはなかったが、各表面で管外径は約5-20%の範囲で伸張し、コンプライアンス(β値)は10-50の生理的範囲で変化した。ジチオカルバメートの光反応性を利用して高分子基材の表面組成をナノレベルで設計することで、生体反応を制御でき、理想的な人工血管の開発の可能性を示した。
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