研究概要 |
本年度の研究においては,ペロブスカイト型酸化物プロトン導電体であるチタン酸塩,セリウム酸塩,ジルコン酸塩及び蛍石型酸化物であるNdをドープしたCeO_2(NDC)ついて,全真空型FT/IR分光装置によるプロトン溶解度の推定,2次イオン質量分析計による溶解度測定と拡散係数測定,軟X線吸収分光(XAS)ならびに発光分光(SXES)、光電子分光法(PES)によりプロトン溶解による物性や化学的特性に及ぼす影響を詳しく検討した。 前年度の提案した酸化物中の水の溶解度を支配する因子として局所塩基度の概念を用いた部分中和反応((1),(2)式の反応)による解析を推進するため、特に蛍石型構造を有する安定化ジルコニア及びセリア系について溶解度ならびに拡散係数に関する検討を加えた。 O^<2->(g)+Vo=O_o (1) (KA) H^+(g)+O_o=OH_o (2) (KA) 測定には微量水素(重水素)の検出感度が高い二次イオン質量分析計(SIMS)を用い、酸素空孔の優先占有サイトが異なることに起因して(1)式の反応の平衡定数が異なる推定されるNDCとイットリウムにより安定化したジルコニア(YSZ)系について単結晶試料を作成して比較した。NDC系に比較してYSZ系中のプロトンの溶解度は非常に低く、SIMSによっても検出が不可能であった。セリア系に比較してジルコニア系ではZr^<4+>が優先的に酸素空孔を配位して7配位となることが知られており、プロトン溶解のために必要な酸化物イオンの溶解が起こりにくいため、両者の溶解度の大きな差が現れてものと考えられる。 多くの系について電子バンドエネルギー図を描いて酸化物中に形成される不純物準位を電子分光測定から見積もるために、軟X線吸収分光(XAS)ならびに発光分光(SXES)、光電子分光法(PES)による電子状態の観察とそれぞれの結果の比較を行った。バンドギャップ間に形成される不純物準位(Ti3d, Zr4d, Ce4f)が酸点(LUMO)となり,これを中和するために(1)式が起こり,導入された塩基点(HOMO)をプロトンが中和する((2)式)という2つの部分中和反応から水の溶解反応が成り立っている.実測値から酸点,塩基点のエネルギーを推定して,移動度や溶解反応の熱力学データと比較した.内殻静電ポテンシャルからガルバニ電位を推定・測定する方法について検討を加えた.
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