まず、プロトン溶解を引き起こすドーパントの選定を行った。Mg、Ni、Co、Tiについて調査したが、Mgが最もプロトン導入に効果的であることがわかった。ただMgをドープしたアルミナは熱衝撃に弱いことが明らかになり、これを緩和するためにCr、Y、B、Sm、Nd、La、Ceなどの第3元素の添加を行ったが、顕著な改善は認められなかった。ついで、Mgをドープした単結晶についてプロトンの結晶内での溶解位置を知るため、偏向赤外線を用いてIR吸収測定を行い、吸収強度の入射方向および結晶方位依存性を詳細に調べた。その結果、水素は酸素8面体の酸素-酸素間に水素結合を形成して溶解するが、4種類の間隔の異なる稜のうち、酸素-酸素間の距離が272pmの稜に優先的に入ることを明らかにした。この優先性はTiをドープしたアルミナにおいても同じであることを確認した。次に、Mgをドープした単結晶について電気伝導度のH/D同位体効果を調べることにより、低酸素分圧下では溶解したプロトンが主要な電荷担体となることを明らかにした。また、電気伝導度にも異方性があり、C軸に対して垂直な方向に電場を印加した場合に電導度が最も高いことが認められた。この異方性は水素の溶解位置から理論的に説明できることを明らかにした。このようにMgをドープしたアルファアルミナが良好なプロトン導電体であることが認められたのでMgが主要な不純物である市販の焼結体アルミナの保護管を用いて水素濃淡電池を作成し起電力の測定を行った。この起電力の値を欠陥構造モデルに基づいて解析し、起電力と両端の水素ポテンシャルの関係を示す式とその式に含まれるパラメータの値を決定した。Mgをドーパントとして採用する場合、アルミナに対するMgの溶解量が少ないことから、普通Mgを不純物として含むアルミナには第2相として、マグネシウム・アルミネート・スピネルが常に共存する。そこでマグネシウム・アルミネート・スピネル相の単結晶および燒結体について、電気化学的特性を調べた。その結果、水素が溶解し、可動であることが認められたが、Mgイオンが大きな電導度を持ち、輸率的にはプロトン伝導が無視できることが明かとなった。
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