研究概要 |
イソ酪酸-水混合液からなる液膜層を下方から加熱した際に(上下面ともに固体壁で、液膜層上面温度<臨界温度<液膜層下面温度の条件)、液膜層内部に形成される対流パターンは、本系が相分離過程を伴うことから、通常の均一液相系とは全く異なるパターンとなることが知られている。例えば、ある温度条件においては、相分離した一つの液滴を含む規則的な多角形セルパターンが形成される。本研究では、このような二液相分離過程を伴うレーリー・ベナール対流系に見られる特異なパターンの形成メカニズム、さらには形成速度等に及ぼす液膜層温度勾配の影響を検討した。具体的には、1.実験的検討 液膜層を垂直方向から観察することにより以下の点が明らかになった。上記パターン形成過程において、相分離液滴は成長するが、最終的には消滅する。この液滴成長速度は、τ(=(T_t-T_c)/T_c)の増加とともに増大し、また一定のτにおいては温度勾配(=(T_b-T_t)/d)に対して最小値を示すことがわかった。ここで、d,T_b,T_c,T_tは液膜層厚さ、液膜下面温度、臨界温度及び液膜上面温度である。同様に、消滅速度もτ並びに温度勾配に対し強い依存性を示した。しかし、成長並びに消滅速度に対する温度勾配依存性の詳細については、本研究では明らかにすることができなかった。 液膜層を側面から観察することにより、上記パターン形成メカニズムを以下のように推測することができた。ただし、本実験では液膜層全体をT_bに保持した後、T_tをT_c以下に冷却することにより液膜層に温度勾配を付与した。まず、相分離、液滴間の合体及び密度差に起因して、液膜層上部に上下2液層が形成される。この2液層界面に界面下部で遅れて相分離、合体して形成された液滴がトラップされる。この液滴内外には温度勾配に起因したマランゴニ対流が発生しており、この対流が液滴の上部層への合体を抑制する。以上の界面における液滴の存在とマランゴニ対流が上記の特異的パターンとして観察される。 2.理論的検討 上記パターン形成のメカニズムを理論的に説明するために、"level set method"に基づくシミュレーションコードの開発を試みた。
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