研究概要 |
水溶液中でアルコールから無触媒でアセトアルデヒドが生成する反応は、有機化学的に見ても極めて特異である。我々は、エタノールの水酸基に水素結合した水分子に沿って水素が移動し反応が進行するモデル(CH_3CH_2OH+nH_2O→CH_3CHO+H_2+ H_2O (n=0,1,2))を考え、量子化学的な手法により水の触媒作用を検討した。 (1)水分子の触媒作用 水分子が反応に関与しない時(n=0)の活性化エネルギーは82.1kcal/molと非常に大きい。通常の遷移状態理論により反応速度定数を計算すると、2.05×10^<-13>s^<-1>であった。高温下であっても、このような遷移状態を経て反応が起こる確率は非常に小さい。次に、水1分子が反応に関与する場合(n=1)、活性化エネルギーは劇的に減少し、54.9kcal/molになる。この反応の速度定数は1.25×10^<-7>s^<-1>であり、水分子の反応への関与により酸化反応は大きく活性化される。さらに、もう一つの水分子が反応に関与すると(n=2)、活性化エネルギーはさらに5kcal/mol以上減少し48.9kcal/molになる。このように、水分子がエタノールの酸化反応において強力な触媒として働く可能性が第一原理量子化学計算により明らかにされた。 (2)プロトン移動に対する超臨界水の溶媒効果 上記のようなメカニズムで反応が進行する場合、分子全体でかなりの電荷分極が生じるので、極性溶媒が反応に与える影響を調べることは重要である。ハイブリッド型の第一原理分子動力学法により、超臨界水(T_r=1.07K,ρ=0.33g/cm^3)及び通常の水(T=298K,ρ=1.0g/cm^3)のn=2の反応に対する溶媒効果を計算した。計算結果によれば、通常の水中では、遷移状態に対する溶媒和エネルギーは、反応物のそれよりも小さく、活性化エネルギーは7.4kcal/mol増加する。これに対して、超臨界水中では、活性化エネルギーは約3.7kcal/mol減少する。これらのことから、超臨界水中では、エネルギー的にプロトン移動が進行しやすくなることが分かった。
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