研究概要 |
本研究では抗体のようにあらゆる抗原に結合でき、しかも酵素のようにその抗原(基質)を分解できる"夢のような分子"(いわゆる「スーパー抗体酵素」)を設計・作製し、これまでとは全く異った手法で悪性細菌や悪性ウイルスを叩く分子を創製するのが大きな目的である。そのために本年度は研究計画に従って以下に示す項目について検討を行った。 1)立体構造解析の結果、HpU-9抗体軽鎖,-18抗体軽鎖共にAsp1,Ser27a,His93より成る触媒三ツ組残基様構造を持つと推定された。ペプチド基質を用いた分解実験では、予想通りに他の抗体酵素と同様の反応プロファイルを示しながらこれを分解した。加えて、標的タンパク質であるHelicobacter pyloriウレアーゼに対する分解実験でも、分解活性を示した。 2)HpU-2-HによるHPU2EPIペプチドに対する分解反応の結果は、これまで他の天然型抗体酵素で見られたのと同様に、誘導期と活性期からなる2相性の曲線を描きながら約80時間でこのペプチドは完全に反応系から消失した。HpU-2-HとH.pylori菌ウレアーゼを反応させたところ、ウレアーゼのβ-subunitが短時間でかつ特異的に分解され、切断断片と思われる新たなバンドが複数出現した。HSAやBSAはほとんど分解されなかった。つまりHpU-2-Hは特異的にH.pylori菌ウレアーゼを分解していると言える。 3)各HpU抗体サブユニット(HpU-2-L,HpU-9-L,HpU-17-L,HpU-17-H,HpU-18-L,HpU-20-L,HpU-20-H:Lは軽鎖,Hは重鎖)について全て速度論的パラメータは求めた。触媒効率(kcat/Km)は、各HpU抗体サブユニット、trypsin間で大きな差は見られなかったが、kcat値及びKm値はtrypsinと大きく異なる性質を示した。 4)今後のin vivo実験に備えマウスに感染しやすいHelicobacter pylori菌株(SS1株)を入手し、寒天培地での大量培養をおこなった。
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