研究概要 |
本研究では、生体試料及び環境試料中に含まれる微量金属元素の化学形態別分析に関する研究を行った。微量金属元素に関する分析は、従来はその存在量が微量であっために全量分析(total analysis)が主であったが、生体や環境中の金属元素は生理活性作用や毒性・有害性の発現には、その化学形態が多く影響することから、それぞれの金属元素の化学形態(化合物)を解明する研究領域が「化学形態別分析法(Chemical speciation),として世界的に注目され、発展が期待されている。そこで、CHAPS(胆汁酸誘導体の一種で両性イオン界面活性剤)被覆固定相カラム及びサイズ排除カラムを用いるクロマトグラフィー(HPLC)と、高感度同時分析が可能なICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)を結合した複合分析システムを開発し、生体試料としてヒト血清、イクラ(鮭の卵)、茶葉等、環境試料として海水や湖沼水を用いて、微量金属元素の化学形態別分析(Chemical speciation)を行った。その中で、ヒト血清については、制がん剤として臨床応用がなされているシスプラチン(cis-damminedichloroplatinum(II))の血清中アルブミン等のタンパク質やシステイン(アミノ酸)との結合形態を明らかにした。イクラは、個体発生及び生理活性発現面から興味ある試料である。そこで、イクラ卵細胞の多元素分析を行い、これまでに50元素を越える元素の定量・検出を行ってきたが、本研究ではさらにイクラ内液中の小分子種(P, Mo, S, Cl,Br)の化学形態分析を行った。さらに、湖沼水については、溶存する微量金属元素の化学形態は、生体起源有機物であるタンパク質等を含むコロイド状複合粒子、及び溶存タンパク様高分子との結合に大きく左右されることも明らかにした。
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